テキストもユーザーインターフェースの一部です。システムが正常に動作し、GUIが使いやすく設計されていて、効率的なものになっているということと同じくらい重要です。1文字にも大きな意味があり、わずかな工夫で体験に大きな影響をもたらすことがあります。
システムからのメッセージのテキストだけでなく、入力項目やボタンのラベル、ナビゲーション、ヘルプのテキストと、システムの様々な箇所でテキストが使われます。ひとつひとつの単語の選択や言い回しの専門性のレベル、ユーザーに接する口調や効率的で理解しやすい文章構成、そしてそれらすべてが一貫性を持っていることが、ユーザーの体験を左右します。
コミュニケーションは相手に合わせることが重要であり、特定の単語や文章を選択すればよいという一つの正解はありません。利用者に不快な思いをさせるシステム寄りのテキストではなく、ユーザー目線に立つことがまずは重要ですが、それはつまりユーザーがどのような文脈で画面に臨んでいるのかを把握する必要があるということです。
こうしたことを把握して、はじめてユーザーにとってピンとくるインターフェースの要素としてテキストをデザインすることができます。ユーザーの習熟度や利用頻度、利用場面やITリテラシーによってもこれらは変わってきます。業務システムとしてある程度の共通のガイドラインを設計した上で、これら個別の事情に合わせた細やかなチューニングも必要になります。
対象が広く使用者の間で読み書きの能力に大きな差がある英語ではなるべく言葉を削ぐ傾向がありますが、日本語や中国語のように表意文字をスキミングができる言語では、たくさんの文字を短時間で読解することができます。文字でたくさんの情報を凝縮できる特性に甘えて、日本語ではどうしても説明し過ぎてしまう傾向がありますが、“シンプルに”という原則にのっとって、より簡潔に伝えることを意識しましょう。
ユーザーを主役にした表現にします。システム・製品からの立場でしてほしいことや提供できることを言うのではなく、ユーザーの立場からできることや得られることを伝える言い回しにします。
例えば「互換性」など、コンピューターに携わる業界の人間であれば違和感がないものの、一般的には浸透していないような専門用語・業界用語は避け、ユーザーが理解できる平易な単語や言い回しに置き換えます。また、「コンピュータ」「ユーザ」「プリンタ」といった末尾の音引きを省略した表記はせず、一般的な表記に合わせて統一します。これは「2音の用語は長音符号を付け、3音以上の用語の場合は省くことを原則とする」としたJIS規格(JISZ 8301)に基づき科学技術・工学系のドキュメントなど一部で用いられてきた専門的なルールにすぎません。ちなみにマイクロソフトは2008年の時点でコンピューターの一般化・日常化につれて音引きなしの表記に違和感を感じるようになっているとして、一般的な表記に合わせるようルール改訂を行っています。
ただ、重要なのは“このシステムのユーザーにとって理解できること”なので、とある分野の専門家だけ、あるいは非常に限定的な業務グループだけを対象にしたようなケースならば、対象ユーザーの間でもっとも通用しやすい用語を使用するのが適切といえます。一般的な言い回しに直すことで、かえって厳密性を失って伝わりづらくなったり、冗長でシンプルさを欠いた非効率なものになってしまう可能性があります。
冗長な表現を避け、簡潔で瞬時に伝わりやすいテキストを心がけます。編集者になったつもりで無駄や重複を省いて効率的な文章になるようにしましょう。誤字や脱字もチェックして正しさにも気を配ります。ボタンなどコントロールのラベルには短く慣例的に自然なものをつけます。無くてもかまわない字で無駄に文言が長くならないよう「する」は付けず、送り字は意味が自然に伝わる限り省略します。慣例的で意味の通りやすいアイコンもボタンの文言をシンプルに保つのに有用です。
ですます調で丁寧で親しみやすい口調にします。仰々しい敬語やへりくだり、紋切り型の挨拶は不要です。逆に口語や慣用表現などでくだけた感じをわざと演出する必要もありません。そして、ユーザーを脅されたり責められている気分にしてしまうため、否定的な言葉は使わないようにします。エクスクラメーションマーク「!」も避けます。同じことを伝えるにも、穏やかな口調でポジティブな表現となるようにします。