原則

使いやすいUIのための原則といったものは、その観点や切り口を変えながら多くのものが流布していますが、とくに業務システムのUIのデザインのために、守るべきポイントを列挙しました。ABUIに備えられているUIパターンやコンポーネントに組み込まれているふるまいは、すでにこうした原則にのっとったものとなっていますが、それらを組み合わせていくのにもまたこれらの原則に照らし合わせて妥当性を判断していくことが必要です。

シンプルに

人間がいちどに認識し処理できる情報量には限界があります。無駄な情報に埋もれてしまえば、視界の中で必要な情報を探し拾うのが難しくなります。ユーザーに必要な情報のみ必要なタイミングで触れるように表示を制御したり、ユーザーの概念モデルや共通認識を利用して標準化・自動化したりすることで、表示と操作を単純化しましょう。シンプルであることは、認知的な負荷を減らし、快適な操作体験とシステムへの理解をもたらします。

移動距離は常に短く

ユーザーが触れる情報の無駄をなくすとともに、ユーザーの行動についても無駄なく効率的なものとなるようにアクションの順序や経路を設計します。最初から必ずしも必要でない情報の入力はいちどに求めず、必要となった時点で追加できるようにして、まずは気軽にフローを開始してもらうといったことや、いったん先まで進ませておいてからあとで何かが足りないと出発地点まで連れ戻すような事態にならないようきちんと分岐と条件を整理しておくといったことです。また、フローの中断がユーザーに深刻な被害をもたらさない限りはいつでも途中で離脱できる経路を設けておくことも重要です。

そもそもフローの開始前にユーザーを適切なスタート地点に連れていくことも大切です。大多数のユーザーにとって開始時の動作が決まっているのなら、スクロール位置や表示の状態、値の保持や初期値、初めに入力するコントロールへのフォーカスなど、ユーザーがすぐに取り掛かれる状態で画面がロードされるようにします。ひとつのフローを終えた後の次の動作も同様で、前のフローの完了後、次のフローに最もとりかかりやすい状態に自動で遷移するようにします。

記憶に頼らない

人の記憶には量の面でも精度の面でも限界があります。ユーザーに何かを正確に思い出してもらうことを期待するよりも、認識可能な要素を示すほうが高いユーザビリティとスムーズな操作体験を実現できます。ユーザーの持つ記憶や知識を頼りに正確な入力や段取りを求めるようなことをしないほか、システムの利用中にもユーザーの短期記憶を試すような負担をかけないようにします。

寛容性を持つ

システムの都合で操作や判断をユーザーに強要しないようにします。システム側が規定した形式や順序に合わせることを求めるのではなく、可能な限りユーザーの通常ありうる自然な行動や入力を受け付け、システム側で適切に変換するようにして、ユーザーに不要な負荷をかけないようにします。

適切なフィードバック

操作の直前に操作を助ける情報と、ユーザーの操作の結果起きたこと、現在の状態についての情報の提示がフィードバックです。ユーザーが意識しているアクションの単位だけでなく、ロールオーバーやフォーカス、クリック、ドラッグ、ドロップなど細かな分解されたひとつひとつの操作についての反応もまた次の操作のためのフィードバックとしてはたらき、ひとつの大きな操作のためのフィードバックを構成しています。フィードバックが、音や見た目の変化、アニメーションやメッセージなどにより適切なタイミングで逐一伝えられることで、ユーザーはシステムとの対話に安心感を持ちます。システムを信頼した満足度の高い使用体験を提供するとともに、操作ミスを減らすことにもつながります。

一貫性を保つ

同じ意味や機能を持つものは同じように、配色、形状、配置、ふるまいなどに一貫したルールを適用します。システム内での一貫性だけでなく、ターゲットユーザーが慣れ親しんでいる他の一般的なシステムや社会的な慣習などとも一貫性を持たせるようにすると、このシステム外の外部知識や共通認識を利用できるため、説明を省きシンプルにできるとともに、よりユーザーの自然な期待に応え、予測や学習を助けることができます。

よい見た目にする

動きや間も(あるいは音も)含めたふるまいとして、ここちよく美しく感じられる“見た目”は、審美的なことだけにとどまるものではありません。機能性と効率性を体現した結果としての“見た目”が、われわれが「美しい」「ここちよい」と感じる「美の基準」の一部を作り上げてきたという逆説的な側面もありますが、単に肯定的な感情を持って作業を遂行するほうがパフォーマンスが高い、という観点においても、よい見た目であるということは重要な意味があります。肯定的な感情が広がり優先の思考を促進することにより、人間は些細な困難に対してより寛容になり、解決策を見つけるうえでより柔軟かつ創造的になると言われています。ユーザーの体験を支える高い「利用品質」は、当然ながらよい見た目なしに実現できるものではありません。

デザインには実際のコンテンツを使う

実際に使用されるデータとは程遠い仮のテキスト(例:「ああああああ」「テキストが入ります」)や画像ではなく、実データまたは実データから要秘匿部分を調整したデータをデザイン過程でも流し込んでデザイン自体の判断の材料としていくことが重要です。見た目のバランス、最大/最小情報量のときの表示領域の整合性やサイズ設計、妥当なUIコントロールパーツの選択や、情報の性質に合わせた順序・関連性・重要性の情報デザイン、情報の形式に合わせた適切な制限の設定、ユーザーの文脈に合わせた開示の制御など、UIの使い勝手をきめる重要な要因は、実際のものに限りなく近いデータが入っていてこそ判断が可能なものです。

KISSの法則

Keep It Simple, Stupid.(シンプルでいこうよ、オリコウサン)

KISSの法則として知られる“シンプルさを保つ”という原則にもとづき、「利用者」「操作」「機能」の関係をシステム全体でなるべくシンプルに保った設計でシステムを使いやすいものにします。「たくさんの機能がある」「複雑だが便利な機能がある」という機能の視点からではなく、ユーザー視点からシンプルな機能と操作を組み合わせ、システム全体の理解と業務の遂行を早めることで、利用体験を最大化しようとする考えかたです。

システムにとってのシンプルさは、「抽象性」「一貫性」「即時性」という3つの観点から、整理することができます。それらを「利用者」「操作」「機能」という切り口から検証していくことで、漠然とした“シンプルさ”を超えて、目的に沿った形でのシンプルな設計を実現できます。

適切な抽象性とは 適切な一貫性とは 適切な即時性とは
利用者にとって 想定する利用者像とその権限は適切か 同じ内容は同じように表示されているか 行いたいことがすぐに見つけられるか
操作にとって 不要な項目や重複する項目を入力させていないか 同じ項目に違う操作を割り当てていないか 操作の結果がすぐに表示に反映されるか
機能にとって 機能と処理対象のデータが適切に対応しているか 処理対象のデータ構造に矛盾がないか 処理の結果をすぐに返せるか、非同期で返すか